不妊に悩む男性がやるべき!生活で見直すポイント

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男性不妊は、不妊の原因の約3分の1を占めています。そのうち9割以上が、精子を作る機能の障害です。1)妊娠しやすい精子を作るには、食事などの日々の生活習慣が大切です。女性の妊活には葉酸サプリが欠かせませんが、男性にも必要なのでしょうか。この記事では、男性が妊娠力を上げるためにできる習慣のポイントと、葉酸サプリを飲むべきかについて解説します。

妊活中の男性ができることは?

精子は精巣にある精祖細胞をもとに、約70日かけて細胞分裂を繰り返して作られます。妊娠しやすさに影響するのは、精子の数と質です。精子数が少ない、運動率が低い、正常な形の精子が少ないなどの要因は、男性不妊につながります。1)

質の良い精子を作るには、健康的な生活習慣が欠かせません。ここでは、質の良い精子を作るため、日常生活で心がけたいポイントを紹介します。

禁煙

喫煙は全身の健康状態の低下につながり、妊娠についても例外ではありません。妊娠を希望する場合は、禁煙を目指しましょう。

喫煙によって、ED(勃起不全)を発症するリスクが高くなり、精子の数は少なく、受精能力は低くなることが知られています。2)

タバコの煙には、酸化ストレスを引き起こす物質が多く含まれます。酸化ストレスは精子のDNAや細胞膜を傷つけ、精子の数の減少、運動性の低下を引き起こします。3

喫煙者本人だけでなく、受動喫煙の悪影響も無視できません。妊娠を希望してから妊娠するまでの期間は、パートナーの男性の喫煙によって長くなります。また妊娠中の受動喫煙は、乳幼児突然死症候群の原因になるほか、胎児の発育が遅れる可能性も指摘されています4)

不妊治療のためはもちろん、将来の子どものためにも、妊娠を考えたタイミングでの禁煙がおすすめです。自力での禁煙が難しい場合は、禁煙外来や禁煙補助薬を使用する方法もあります。禁煙への初めの一歩として、まずは近所の禁煙外来を探してみるのもよいでしょう。

適度な運動

運動によって、精子の酸化ストレスや炎症、DNAの損傷が少なくなり、精子の数や運動性、正常形態率が高くなることが報告されています。中程度の強さの有酸素運動が最も有効です。研究では、ウォーキングやジョギングを最初の12週間は1日25~30分、週3~4日、その後の12週間は1日40~45分、週4~6日行った群で効果がみられました。5)

また、運動は肥満の予防のためにも重要です。肥満も不妊の原因のひとつであり、肥満を解消することで精子の数が増加することが知られています。6)

精子の質を上げるためには、運動習慣をつけることが大切です。まずは1日30分、週3日からを目標に運動を行いましょう。運動の時間をとるのが難しい場合は、日常生活の中で歩数を増やすのもおすすめです。車や交通機関を使わずに歩いて出かける、少し遠くのスーパーやコンビニまで買い物に行くなどの工夫をしてみましょう。

定期的な射精

長期間の禁欲は、精子の質を低下させる原因のひとつです。禁欲期間が長くなると、精子の生存率や運動率が低下し、妊娠率も低くなることが知られています。

また、性交回数が多いほど妊娠する確率も高いというデータもあり、この理由として男性の射精回数が多いことが影響していると考えられています。定期的に射精し、精子を新鮮に保つことは妊娠のために大切です。7)

バランスの良い食事

栄養状態も、精子の数や質などの生殖機能に影響する要因のひとつです。細胞分裂を繰り返して精子を作る過程には、多くの種類の栄養素が関わっています。特に、微量栄養素であるビタミンやミネラルは、精子の質を高める重要な役割を担っています。2)

必要な栄養素をまんべんなく摂取できるよう、バランスの良い食生活を心がけましょう。特に必要な栄養素や食生活の注意点については、この後の章で詳しく解説します。

元気な精子を作る栄養素

質の高い精子を作るには、精子の材料となる栄養素をとることが大切です。また、精子の炎症や酸化を防ぎ、質を維持するための成分も必要です。ここでは、質の高い精子を作るための栄養素をご紹介します。

n-3系脂肪酸

脂質の一種で、DHA、EPA、α-リノレン酸などの種類があります。

特にDHAは、精子の細胞膜に多く含まれる脂肪酸です。精子に含まれるDHAが増えると、精子の正常形態率や運動性が高くなるといわれています。8)

n-3系脂肪酸は人の体で合成できないため、食事からとる必要があります。おすすめの食品は、DHAやEPAを多く含む青魚や、α-リノレン酸を多く含むくるみです。これらの食品からn-3系脂肪酸の摂取を増やすことで、精子の質の向上が期待できます。8)

抗酸化物質

抗酸化物質は、体内で発生した活性酸素を消去し、酸化ストレスによって細胞が傷つかないよう守る働きがあります。

これは精子でも例外ではありません。精液に含まれるビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質は、活性酸素から精子を保護するのに重要です。抗酸化物質を摂取することは、精子の質の改善、特に運動性の向上に役立つ可能性が研究により示されています。また、β-カロテンの摂取は精子の染色体異常を予防するともいわれています。8)

抗酸化物質であるこれらのビタミンは、緑黄色野菜に多く含まれます。ほうれん草やピーマン、かぼちゃなど、色の濃い野菜を食事に取り入れましょう。

その他の栄養素

精子が作られる過程では、大量のDNAが合成されます。DNA合成には、葉酸やビタミンB12、亜鉛などの栄養素が必要です。特に葉酸は精子のDNAの損傷を防ぐ働きもあり、女性だけでなく男性にも必要な栄養素といえます。8)

葉酸を多く含む食べ物は、ほうれん草などの葉物の野菜やブロッコリーなどの野菜です。「葉酸」という漢字から、緑の野菜に多いと覚えておくとよいでしょう。

また、ビタミンDも精子の質に関係します。ビタミンDは主に骨や歯の形成に関わる栄養素ですが、精子では運動性を改善する働きが期待されています9)

ビタミンDは魚介類やきのこ類に多いほか、紫外線を浴びると皮膚で合成されます。

元気な精子を作るための食事とは?

魚介類や野菜を積極的に

複数の研究結果から、魚介類や全粒穀物、豆類、脱脂乳、果物、野菜を多くとる食事は精子の質を改善させることが明らかになっています。8)

日本人の食生活は、野菜不足の傾向にあります。10)また、魚の消費量も年々減少しています。11)これらの食品を意識して取り入れましょう。

焼き魚定食や刺身など、主菜で魚を選ぶ回数を増やしましょう。切り身をフライパンで焼くだけでも構いません。また、最近はコンビニでも焼き魚が売られています。サバ缶やツナ缶などの缶詰、魚肉ソーセージなども便利に活用できます。

野菜は、両手に乗る量を毎食とるのが理想です。家庭では、みそ汁やスープに野菜をたくさん入れるのがおすすめです。カット野菜や冷凍野菜を活用すると手軽に野菜を追加できます。また外食では野菜の小鉢を添える、コンビニではカットサラダを買うなど、まずは1日1皿分から摂取量を増やしましょう。

とり過ぎに注意したい食べ物・飲み物

反対に、精子の質を高めるためにはとり過ぎに注意したい食べ物もあります。

最近のいくつかの研究結果では、脂質や加工肉、赤身肉、精製穀物、お菓子や甘い飲み物を多くとる食事は、精子の質の低下と関連するといわれています。8)

ベーコンやハム、ソーセージなどの加工肉は便利ですが、脂質が多く含まれています。こればかりに偏らないようにしましょう。代わりに魚の缶詰や魚肉ソーセージなど、魚の加工品を選ぶのがおすすめです。

また、ジュース、エナジードリンク、スポーツドリンクなどの甘い飲み物にも注意が必要です。飲み物に含まれる糖類によるエネルギーのとり過ぎは、肥満の原因にもなります。水分補給は甘い飲み物ではなく、水やお茶で行うようにしましょう。

飲み物については、アルコールやカフェインにも気をつけたいところです。

過度の飲酒は、精子の形や運動性に悪影響を及ぼすと考えられています。12)カフェインが精子の質への影響は明らかになっていませんが、不妊治療による出生率が低下したというデータもあります。13)どちらもとり過ぎは避けたほうがよいでしょう。

健康を守るための一般的な摂取量は、アルコールは日本酒1合程度まで14)、カフェインはコーヒー3杯程度まで15)とされています。妊活中もこの程度に控えておくのがおすすめです。

男性が葉酸サプリを摂っても意味がない?

女性では、妊娠を希望してから妊娠初期までの間、葉酸サプリの摂取が推奨されています。16)

しかし男性では、葉酸サプリによる妊娠への効果について研究結果が一致しておらず、効果は明らかになっていません。

アメリカで行われた約2400組の不妊治療クリニックに通うカップルを対象に、葉酸と亜鉛のサプリの有効性を検証した研究があります。

実験結果によると、葉酸5mgと亜鉛30mgが含まれるサプリを飲んでも、精子の濃度や運動性、形態などに差はみられませんでした。また、出生率はサプリを使用した群で34%、プラセボと呼ばれる偽薬を飲んだ群で35%と変わらない結果でした。

この研究報告では、不妊治療における葉酸や亜鉛のサプリの使用を推奨していません。17)

一方で、精子の受精能力が低かった男性が葉酸と亜鉛のサプリを摂取した結果、精子の濃度の増加が認められたとする報告もあります。18)

成人の葉酸の推奨量は、1日240μgです。16)葉酸を1日の推奨量まで摂取することで、精子の質を保つのに役立つ可能性が考えられます。

2019年の調査では、男性の葉酸摂取量の中央値は20~29歳で213μg、30~39歳の男性では224μgでした19)。この結果から、全体の半数以上の男性で葉酸摂取が不足しているといえます。

まずは葉酸の摂取源となる野菜をしっかりとりましょう。野菜からは抗酸化成分など、精子にとって必要な他の栄養素も合わせて摂取できます。

食事からの摂取を工夫しても難しい場合は、葉酸を含むサプリメントを活用するのもよいでしょう。

まとめ

妊娠のためには、精子の数と質が重要です。妊娠力のある良質な精子を多く作るには、日々の健康づくりが欠かせません。

タバコを吸っている人は、まずは禁煙から始めましょう。さらに、運動や食生活の見直しも大切です。外食やコンビニ食でも、工夫次第で食生活は改善できます。取り組みやすいことから少しずつ実践していくのがおすすめです。

今回ご紹介した生活習慣は、将来の生活習慣病の予防にも役立ちます。また、未来の子どもの健康にも影響します。これからの自分や家族のために、今から健康づくりに取り組んでいきましょう。

参考文献

1)「カラー図解 人体の正常機能と構造 全10巻縮刷版 第3版」日本医事新報社(2017)

2)ジョージ・E・チャヴァロ、ウォルター・C・ウィレット、パトリック・J・スケレット「妊娠しやすい食生活 ハーバード大学調査に基づく妊娠に近づく自然な方法」日本経済新聞出版社(2013)

3)Ashok Agarwal, et al. The effects of oxidative  stress on female reproduction:a review. Reproductive Biology and Endocrinology 2012, 10:49

https://rbej.biomedcentral.com/articles/10.1186/1477-7827-10-49

4)厚生労働省「e-ヘルスネット 女性の喫煙・受動喫煙の状況と、妊娠出産などへの影響」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-02-003.html

5)千葉アンチエイジング研究所「不妊治療とアンチエイジング 3つの運動スタイルの妊娠させる力への影響:無作為比較対照試験」https://www.chiba-aa.com/blog/144.html

6)「CareNet 減量により肥満男性の精子数が上昇」https://www.carenet.com/news/general/hdn/54481

7)公益財団法人1 more baby 応援団「妊活中に男性が取り組むべきこと~禁欲期間と精子の質の関係性~」https://www.1morebaby.jp/column/articles/2397/

8)Feiby L Nassan, et al. Diet and men’s fertility: does diet affect sperm quality?. Fertility and Sterility 2018, 110(4):570-577

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30196939/

9)Gloria Calagna, et al. Vitamin D and Male Reproduction: Updated Evidence Based on Literature Review. Nutrient 2022, 14(16):3278

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36014783/

10)厚生労働省「令和元年「国民健康・栄養調査」結果の概要」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf

11)水産庁「令和元年度 水産白書」https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r01_h/trend/1/t1_4_2.html

12)Xiaoling Ma, et al. Diet and human reproductive system: Insight of omics approaches. Food Science & Nutrition 2022, 10(5):1368-1384

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35592285/

13)AE Karmon, et al. Male caffeine and alcohol intake in relation to semen parameters and in vitro fertilization outcomes among fertility patients. Andrology 2017, 5(2):354-361

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28187518/

14)厚生労働省「e-ヘルスネット 栄養・食事・血圧から見た許容飲酒量」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-011.html

15)農林水産省「カフェインの過剰摂取について」https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/caffeine.html

16)厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.htm

l7)Enrique F Schisterman, et al. Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility Treatment: A Randomized Clinical Trial. Journal of American Medical Association 2020, 323(1):35-48

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31910279/

18)Morvarid Irani, et al. The Effect of Folate and Folate Plus Zinc Supplementation on Endocrine Parameters and Sperm Characteristics in Sub-Fertile Men: A Systematic Review and Meta-Analysis. Urology Journal 2017, 14(5):4069-4078

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28853101/

19)厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html

 

三樹彩夏
【監修】管理栄養士

三樹彩夏

小児科・内科クリニックに勤務後、2020年にフリーランスに転身。「健康的な生活を当たり前にする」をモットーに、ダイエットサポートやライター業を通して食の大切さを伝えている。

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