妊娠前に必要な栄養素
- 妊娠
妊娠・出産に向けて第一に大切なのは、母体になる女性の身体作りです。しかし、現代女性は栄養が不足しがちで、それに伴う早産や出生時の低体重が問題視されています。
妊婦に必要な栄養素として有名なのは葉酸ですが、それ以外にも妊娠時に多くとりたい栄養素はいくつもあります。この記事では、妊娠前後に必要な栄養素と多く含まれる食品を解説します。
現代女性は栄養が不足しがち
妊娠している・いないにかかわらず、20~30代の日本人女性は栄養が不足している傾向にあります。
例として、鉄の摂取量を見てみましょう。日本人の食事摂取基準(2020年版)1)では、18歳~49歳の女性の推奨量は、月経がある場合10.5mg、月経がない場合6.5mgです。また妊娠すると必要量が増え、初期の推奨量は9.0mg、中期・後期では16.0mgと設定されています。
しかし令和元年の国民健康・栄養調査2)によると、鉄の摂取量の平均は20代女性で6.2mg、30代女性で6.4mgと大幅に不足しています。さらに、妊婦の摂取量の平均は6.7mgであり、妊娠前から摂取量が増えていないのが現状です。
鉄が不足すると、鉄欠乏性貧血の原因となります。同じく国民健康・栄養調査2)では、貧血の指標となる血液中のヘモグロビン値が基準値の12.0g/dL4)を下回っている人は、20代女性で8.9%、30代女性で18.2%いました。20代女性ではおよそ10人に1人、30代女性ではおよそ5人に1人が貧血であるといえます。
さらに現代の日本人の食事では、野菜の摂取量も不足していることが分かっています。推奨される野菜の摂取量は1日350g3)ですが、実際の摂取量は20代女性で平均212.1g、30代女性では223.2g2)に留まっています。
野菜からは、体の働きを正常に保つのに必要なビタミン・ミネラルを摂取できます。特に緑黄色野菜は、胎児の発育に重要なビタミンである葉酸の摂取源です。
葉酸の1日の推奨量1)は、18歳以上の女性で1日240μgです。妊活中から妊娠初期では食事から240μgの摂取に加えてサプリメントから400μgの摂取が推奨されています。また、妊娠中期・後期では食事からの推奨量が480μgと設定されています。
しかし、葉酸の摂取量の平均2)は20代女性で226μg、30代女性で233μgであり、わずかに不足傾向です。また、妊婦の摂取量は243μgであり、鉄と同様に妊娠しても摂取量は増えていません。
妊娠期は胎児の発育のため、非妊娠時より必要なエネルギー量や栄養量が多くなります。エネルギー摂取量の不足による若年女性のやせは、早産や出生時の低体重などのリスクを高めます。また、胎児の発育が十分でない場合、成人後に肥満や心臓病、糖尿病などの病気のリスクが高まるともいわれています5)。
妊娠後に急激に食事を変えることは難しいため、妊娠前から意識的に栄養を摂取することが大切です。
妊活~妊娠中に重要な栄養素
鉄
人体に必要なミネラルの一種で、赤血球に含まれる血色素である「ヘモグロビン」の成分です。ヘモグロビンは肺で酸素と結びつき、体全体に酸素を運ぶ役割を担っています6)。
鉄が不足して起こる鉄欠乏性貧血の症状は、集中力の低下、頭痛、食欲不振などです。また、筋肉中に酸素を運ぶ「ミオグロビン」にも鉄が含まれるため、鉄不足により筋力が低下し疲れやすくなるといった症状も見られます7)。
妊娠期には胎児の成長や、さい帯・胎盤中へ鉄が貯蔵されること、血液量が胎児の分増加することなどに伴い、必要な鉄の量が増加します。そのため、妊娠前よりさらに多くの鉄摂取が必要です1)。
食品中の鉄には、肉や魚などに含まれるヘム鉄と、野菜などに含まれる非ヘム鉄の二種類があります。ヘム鉄は非ヘム鉄より吸収率が高いのが特徴です。非ヘム鉄は、ビタミンCを合わせて摂取すると吸収率が高まります6)。
鉄の多い食品(可食部100gあたり)8)
植物性食品
食品名 |
鉄(mg) |
---|---|
カシューナッツ |
4.8 |
がんもどき |
3.6 |
納豆 |
3.3 |
大根 |
3.1 |
小松菜 |
2.8 |
枝豆 |
2.7 |
そら豆 |
2.3 |
ほうれん草 |
2 |
水菜 |
2.1 |
動物性食品
食品名 |
鉄(mg) |
---|---|
干しえび |
15.0 |
豚レバー |
13.0 |
鶏レバー |
9.0 |
牛レバー |
4.0 |
あさり |
3.8 |
コンビーフ缶詰 |
3.5 |
牛肉(もも) |
2.5 |
かつお |
1.9 |
さんま |
1.4 |
牛肉(肩ロース) |
1.2 |
亜鉛
ミネラルの一種で、筋肉や骨、皮膚、肝臓など多くの臓器に含まれています。酵素と結合して存在し、味覚や免疫など、さまざまな体内の反応が正常に働くようサポートしている成分です。また、体を構成するたんぱく質やDNAの合成、骨の成長にも関わっています9)。
不足すると現れる症状は、成長障害、味覚障害、食欲不振、皮膚炎、脱毛、免疫力の低下などです1)。
亜鉛は胎児の発育にも重要な栄養素であるため、妊娠時は非妊娠時より多くの摂取が必要です。食事摂取基準では、成人女性の1日の推奨量は8mgですが、妊婦では10mgの摂取が推奨されています1)。
穀類や豆類に多く含まれるフィチン酸は、亜鉛の吸収を妨げます。また、食品添加物の中にも亜鉛の吸収を阻害するものがあるため、特定の加工食品にばかり食事が偏らないよう注意が必要です9)。
亜鉛の多い食品(可食部100gあたり)8)
食品名 |
亜鉛(mg) |
---|---|
かき |
14.0 |
いわし(煮干し) |
7.2 |
豚レバー |
6.9 |
牛肉(かたロース) |
5.8 |
カシューナッツ |
5.4 |
牛肉(かた) |
5.3 |
牛肉(もも) |
3.9 |
アーモンド |
3.6 |
油揚げ |
2.5 |
納豆 |
1.9 |
ししゃも |
1.8 |
枝豆 |
1.4 |
カルシウム
成人の体に約1kg含まれているミネラルで、そのほとんどは骨や歯に存在しています。骨量や骨密度を保つために必要な栄養素です。また、一部はカルシウムイオンとして血液や筋肉、神経中にも存在し、筋肉の収縮や神経の情報伝達にも関わっています10)。
不足すると骨粗鬆症、高血圧、動脈硬化を招く恐れがあります1)。
妊娠中は胎児の体を作るため、母体のカルシウムの需要は高まります。一方、腸からのカルシウム吸収率も著しく増加することが知られています。そのため、妊娠時のカルシウム摂取の推奨量は、非妊娠時と同じ量です1)。
ただし、日本人はカルシウム不足の傾向にあります。成人女性のカルシウムの推奨量は1日あたり650mg1)であるのに対し、令和元年の調査2)では、20代女性の1日の平均摂取量は408mg、30代女性では406mgでした。カルシウムは非妊娠時から不足している栄養素であるため、妊娠を考える女性は早めに摂取する習慣をつけましょう。
カルシウムの多い食品(可食部100gあたり)8)
食品名 |
カルシウム(mg) |
---|---|
桜えび |
2000 |
プロセスチーズ |
630 |
油揚げ |
310 |
サバ(水煮缶) |
260 |
しらす |
210 |
小松菜 |
170 |
乾燥わかめ(水戻し) |
130 |
春菊 |
120 |
ヨーグルト |
120 |
牛乳 |
110 |
チンゲンサイ |
100 |
干しひじき(ゆで) |
96 |
オクラ |
92 |
納豆 |
90 |
たんぱく質
筋肉、骨、臓器など、体の組織を作る主な成分です。体たんぱく質は常に合成と分解を繰り返し、分解されたものの一部は体外に排泄されるため、その分のたんぱく質は食事から補う必要があります。
また、体の働きを調節する酵素やホルモンもたんぱく質でできています。さらに、たんぱく質を構成するアミノ酸は、神経伝達物質やビタミンなどの原料としても使われます1)。
妊娠中は胎児の体を作るため、非妊娠時より多くのたんぱく質摂取が必要です。成人女性における1日のたんぱく質推奨量は50gです。妊娠初期(13週まで)の付加量はありませんが、妊娠中期では55g、後期では75gの摂取が推奨されています1)。
たんぱく質の多い食品(可食部100gあたり)8)
食品名 |
たんぱく質(g) |
---|---|
かつお(春獲り) |
25.8 |
かつお(秋獲り) |
25.0 |
鶏肉(ささみ) |
23.9 |
油揚げ |
23.4 |
鶏肉(むね) |
23.3 |
プロセスチーズ |
22.7 |
さけ |
22.3 |
豚肉(ヒレ) |
22.2 |
ぶり |
21.4 |
豚肉(ロース) |
21.1 |
さば |
20.6 |
糸引き納豆 |
16.5 |
卵 |
12.2 |
EPA・DHA
EPA・DHAともに、n-3系脂肪酸(またはオメガ3脂肪酸)と呼ばれる脂質の一種です。神経組織を構成しているほか、心臓病の予防や認知機能の維持に効果が期待されています1)。
妊娠中は胎児の神経組織を作るため、より多くのn-3系脂肪酸の摂取が必要です1)。
EPAやDHAは魚類の脂質に多く含まれています。また、同じn-3系脂肪酸であるα-リノレン酸を摂取すると、一部が体内でEPAやDHAに変換されます11)。α-リノレン酸は、えごま油やあまに油、くるみに多く含まれる成分です。
EPA・DHAの多い食品(可食部100gあたり)8)
食品名 |
EPA(mg) |
DHA(mg) |
---|---|---|
さんま |
1500 |
2200 |
ぶり |
940 |
1700 |
にしん |
880 |
770 |
いわし |
780 |
870 |
さば |
690 |
970 |
あじ |
300 |
570 |
ビタミンD
ビタミンDは体内で活性型ビタミンDに変換され、腸からのカルシウムの吸収を促進します。骨や歯の発育に必要なビタミンです。また、血中のカルシウム濃度を一定に調節し、筋肉の収縮や神経の情報伝達を正常に行うのを助けています。
ビタミンDが不足すると、カルシウムが骨に十分に蓄積されず、小児ではくる病、成人では骨軟化症と呼ばれる症状が起こります。骨軟化症を起こすほどの不足でなくても、長期間不足が続いた場合は骨粗鬆症を引き起こしやすくなります1)。
妊娠中はカルシウムの必要量が増えるのに伴い、活性型ビタミンDの合成も盛んになります。ビタミンDを1日7μg以上摂取している妊婦では不足がみられなかったことから、妊娠中の摂取目安量の設定は、非妊娠時と同じ1日8.5μgです1)。
ビタミンDは日光を浴びると皮膚で合成されるため、ビタミンDの多い食品をとることに加え、適度に外出し日光浴をするよう心がけましょう。
ビタミンDの多い食品(可食部100gあたり)8)
食品名 |
ビタミンD(μg) |
---|---|
いわし |
32.0 |
さけ |
32.0 |
にしん |
22.0 |
さんま |
16.0 |
あじ |
8.9 |
きくらげ(ゆで) |
8.8 |
まいたけ |
4.9 |
干ししいたけ(ゆで) |
1.4 |
葉酸
ビタミンB群の一種で、体内でDNAやたんぱく質、赤血球を合成するのに必要な成分です。
不足すると巨赤芽球性貧血の原因になります1)。
妊娠初期は胎児の細胞分裂が盛んな時期で、新しい細胞にDNAが正確に複製されるために葉酸が多く必要です。この時期に葉酸の摂取量が不足すると、胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクが高まるといわれています12)。妊娠初期は気づかないうちに過ぎていることが多いため、妊娠を計画している段階で葉酸を摂取することが大切です。
また、妊娠中期・後期では葉酸の分解や排泄が進みやすくなります。妊娠初期ほどではないものの、非妊娠時よりは多くの量を摂取する必要があります1)。
葉酸の多い食品(可食部100gあたり)8)
食品名 |
葉酸(μg) |
---|---|
鶏レバー |
390 |
枝豆 |
320 |
牛レバー |
300 |
豚レバー |
240 |
ブロッコリー |
220 |
ほうれんそう |
210 |
アスパラガス |
190 |
春菊 |
190 |
水菜 |
140 |
豆苗 |
120 |
オクラ |
110 |
食物繊維
食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類があります。水溶性食物繊維は腸内細菌のエサになり、善玉菌を増やすことで腸内環境を整える成分です。一方、不溶性食物繊維は便のカサを増やして腸を刺激し、ぜん動運動を活発にする働きがあります13)。
便通を助けるだけでなく、血糖や血中コレステロールの濃度を低下させ、心臓病や脳卒中を予防する働きも知られています1)。
成人女性の食物繊維の摂取目標量は、1日あたり18gです。これは生活習慣病の発症予防の観点から設定された値であるため、妊娠時の付加量はありません。ただし、妊娠時は便秘がみられやすいため、食物繊維を十分に摂取することは大切です。
食物繊維の多い食品(可食部100gあたり)8)
食品名 |
食物繊維(g) |
---|---|
納豆 |
6.7 |
大豆(ゆで) |
6.6 |
わかめ(水戻し) |
5.8 |
ごぼう |
5.7 |
きくらげ(ゆで) |
5.2 |
ブロッコリー |
5.1 |
枝豆 |
5.0 |
オクラ |
5.0 |
しいたけ |
4.6 |
えのきたけ |
3.9 |
ひじき(ゆで) |
3.7 |
かぼちゃ |
3.5 |
まいたけ |
3.5 |
ぶなしめじ |
3.5 |
えりんぎ |
3.4 |
春菊 |
3.2 |
水菜 |
3.0 |
キウイフルーツ |
2.6 |
さといも |
2.3 |
さつまいも |
2.2 |
必要な栄養素を十分にとるには
主食・主菜・副菜を揃えた食事を基本に
食生活の基本は、バランスの良い食事です。バランスの良い食事の目安は、1食に主食・主菜・副菜が揃っていることです。
- 主食…ご飯、パン、麺などの穀類。主に炭水化物の供給源
- 主菜…肉、魚、卵、大豆・大豆製品の料理。主にたんぱく質の供給源
- 副菜…野菜、いも、海藻、きのこの料理。主にビタミン、ミネラル、食物繊維の供給源
主食・主菜・副菜を揃えた食事を1日2回以上とることで、栄養素の摂取量が適正になることが知られています5)。しかし、これらを揃えた食事を1日2回以上、ほぼ毎日とれている女性は20代で32.1%、30代で47.4%であり、若い世代ではバランスの良い食事がなかなかできていないのが現状です。
「妊産婦のための食事バランスガイド」14)に沿って、主食・主菜・副菜を適切に組み合わせると、妊婦に必要な栄養素をバランスよくとることができます。外食や中食でも、この3つを揃えることは可能です。日々の生活の中で意識してみましょう。
乳製品や果物をおやつにプラス
妊娠中に必要なカルシウムやビタミン、食物繊維を摂取するには、牛乳・乳製品や果物を日々の食事に取り入れることも大切です。
「妊産婦のための食事バランスガイド」14)では、主食・主菜・副菜に加え、牛乳・乳製品や果物の摂取量の目安も示されています。日々の食事の参考にしてみましょう。
例えば、妊娠初期の目安量を満たす組み合わせとしては、1日当たり牛乳コップ1杯(200mL)とりんご1個(約200g)となります。妊娠後期では、さらにヨーグルト1パック(約80g)とみかん1個(約100g)を追加すると目安量が満たされます。
一方、牛乳・乳製品の摂取量の平均は20代女性で104.5g、30代女性で92.4gでした。果物の摂取量の平均は、20代女性で平均38.1g、30代女性で45.9gであり2)、いずれも不足しがちな食品群といえます。
食事と一緒にとるには量が多いと感じられる場合は、間食として食べるのがおすすめです。おやつにヨーグルトやチーズ、フルーツを取り入れ、栄養補給に役立てましょう。
サプリメントや栄養補助食品は適切に活用を
食事からとりきれない栄養素は、サプリメントや栄養補助食品で補うこともできます。
サプリメントでとりたい栄養素の代表が、葉酸です。妊娠を計画している女性・妊娠の可能性がある女性・妊娠初期の妊婦では、サプリメントなどから葉酸を摂取することが推奨されています。この時期は、胎児の神経管閉鎖障害を予防するため、特に葉酸の摂取が必要です。サプリメントや栄養補助食品に含まれる葉酸(プテロイルモノグルタミン酸)は、食品に含まれる葉酸(ポリグルタミン酸型)よりも体内での利用効率が高いといわれています1)。
ただし、サプリメントを摂取したからといって、食事から葉酸をとらなくてもよいわけではないため注意が必要です。
それ以外の栄養素も食事からの摂取が基本ですが、不足する場合はサプリメントなどから補うこともできます。
ただし、とりすぎると体に悪影響を及ぼす栄養素もあるため、1日の目安量を守って使用しましょう。また、サプリメントや栄養補助食品を複数使用すると、知らず知らずのうちに過剰摂取につながる恐れがあります。いくつかの製品を併用する場合は、栄養素の種類と量に注意して使用しましょう。
妊活~妊娠中に注意したいこと
妊娠したら飲酒は避けよう
妊娠中に飲酒すると、早産や妊娠高血圧症候群などのリスクが上がるほか、胎児にさまざまな障害が起こる可能性があります。これを胎児性アルコール・スペクトラム障害といいます5)。主な症状は、低体重や発達の遅れ、難聴、運動障害などです。また、成長後にADHDやうつ病などを引き起こす可能性もあります15)。
飲酒量が多いほど発症リスクが高く、妊娠に気づかずに少量飲んだ程度であれば問題になることは少ないとされています。しかし、飲酒量や頻度、時期についてどこまで安全かは分かっていません16)。そのため、胎児に影響する可能性を考え、妊娠中は禁酒が原則です。
たばこの煙を避けよう
妊娠中の喫煙は、早産や胎児の低体重、発育の遅れに影響します。子宮外妊娠や前置胎盤などのトラブルを引き起こす可能性もあります。また本人の喫煙だけでなく、受動喫煙も低体重のリスクです。胎児の発育遅延や、乳幼児突然死症候群の要因になるともいわれています17)。
さらに、女性またはパートナーの男性が喫煙していると、妊娠を希望してから妊娠するまでの時間が長くなることも知られています17)。
妊娠を計画したら、妊婦本人が禁煙することはもちろん、周囲の人も禁煙に協力することが大切です。
体重を適正に
妊婦の体重増加は、妊娠によって起こる自然な現象です。妊娠後の体重が増えないと、早産のリスクや子どもが小さく産まれるリスクが高まります。小さく産まれた子どもは、成人後に心臓病や糖尿病になりやすいといわれています。
反対に体重が増えすぎると、巨大児で生まれる可能性が高くなり、成人後の肥満や糖尿病発症につながる5)ため注意が必要です。
妊娠中の望ましい体重増加量は、妊娠前の体格によって異なります5)。個人差もあるため、医師と相談しながら適正な体重増加を目指しましょう。
また、体格は妊娠しやすさにも影響しています。妊活中の女性は、食事に注意し標準体重を目指しましょう。やせ・肥満ともに排卵が抑制されるため、妊娠しにくくなるといわれています18)。体格指数のBMI※では、標準体重の範囲は18.5~25.0の間です。
※BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
カフェインはとり過ぎに注意
妊娠中にカフェインをとると、胎児の発育が阻害され、出生時に低体重となる可能性があります。
カフェインへの感受性は個人差が大きいため、健康に悪影響が生じない1日の摂取量の上限は、日本でも国際的にも設定されていません。ただし世界保健機関(WHO)は、妊婦はカフェインの摂取を1日300mgまで、コーヒー3~4杯までにするよう注意喚起しています19)。
カフェインはコーヒーだけでなく、紅茶や緑茶、チョコレート、栄養ドリンクやエナジードリンクなどにも含まれます。適度に楽しむ分には問題ありませんが、とり過ぎには注意しましょう。
質の良い睡眠の確保を
妊娠前や妊娠中の睡眠は、生まれた子どもの睡眠に影響します。
例えば、妊娠前の睡眠時間が短いと、生まれた子どもが夜遅くまで起きていたり、睡眠時間が短かったりすることが分かっています。また、妊娠中の睡眠の質が良いと、子どもの発達の問題が起こりにくいことも分かっています20)。
妊娠前後は睡眠時間や環境にも気を配り、質の高い睡眠を目指しましょう。
まとめ
妊娠中は胎児の成長のため、さまざまな栄養素を妊娠前より多く摂取することが必要です。鉄などの妊娠前から不足しがちな栄養素や、葉酸のように妊娠に気づく前から摂取しておきたい栄養素もあります。妊娠してから急激に食生活を変えるのは難しいため、妊活を始めたら早めに食生活を見直し、バランスの良い食事を心がけることが大切です。さらに、飲酒や喫煙、睡眠などの生活習慣も合わせて見直し、妊娠に備えましょう。
参考文献
1)厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
2)厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」https://www.mhlw.go.jp/content/000710991.pdf
3)厚生労働省「健康日本21(第2次)」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_01.pdf
4)公益社団法人日本人間ドック学会「人間ドックの検査項目」https://www.ningen-dock.jp/public/inspection/blood
5)厚生労働省「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」https://www.mhlw.go.jp/content/000776926.pdf
6)厚生労働省「e-ヘルスネット 貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-008.html
7)厚生労働省「e-ヘルスネット 鉄」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-022.html
8)文部科学省「食品成分データベース」https://fooddb.mext.go.jp/index.pl
9)公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット 亜鉛の働きと1日の摂取量」https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-zn-cu.html
10)厚生労働省「e-ヘルスネット カルシウム」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-042.html
11)中村宜督「からだにいいってホント?食品でひく機能性成分の事典」女子栄養大学出版部(2022)
12)厚生労働省「e-ヘルスネット 葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-002.html
13)厚生労働省「e-ヘルスネット 便秘と食習慣」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-010.html
14)国立健康・栄養研究所「妊産婦のための食事バランスガイド」https://www.nibiohn.go.jp/eiken/ninsanpu/balanceguide.html
15)厚生労働省「e-ヘルスネット 胎児性アルコール・スペクトラム障害」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-015.html
16)公益社団法人日本産婦人科医会「飲酒、喫煙と先天異常」https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/jigyo/SENTEN/kouhou/insyu.htm
17)厚生労働省「e-ヘルスネット 女性の喫煙・受動喫煙の状況と、妊娠出産などへの影響」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-02-003.html
18)ジョージ・E・チャヴァロ、ウォルター・C・ウィレット、パトリック・J・スケレット「妊娠しやすい食生活 ハーバード大学調査に基づく妊娠に近づく自然な方法」マグロウヒル・エデュケーション(2013)
19)食品安全委員会「食品中のカフェイン」https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_caffeine.pdf
20)エコチル調査九州大学福岡ユニットセンター「調査で分かったこと」https://eco.kyushu-u.ac.jp/results.html
三樹彩夏
小児科・内科クリニックに勤務後、2020年にフリーランスに転身。「健康的な生活を当たり前にする」をモットーに、ダイエットサポートやライター業を通して食の大切さを伝えている。